気付けない人は何が足りないか [勉強の役割]


言われたことをきちんとやる。
子供の間はそれで良いのかもしれませんが、大人になったときに求められるのは、自分で行わなければならないことを自分で決めて行動する姿勢です。
人が成果を上げるプロセスは大抵以下の四段階に分けて説明できます。
第一段階は、「気付く」です。
そして、それに対して働きかけを行うことを決める自分がいます。
すなわち、第二段階は、「決める」ことですね。
さらに、行動に移すのが、第三段階の「動く」。
通常、それを継続して初めて成果が出ます。
ですから、「継続する」というのが最後の第四段階となります。
まとめるとこうなります。

気付く→決める→動く→継続する

何かをしようと決める自分。
実際に動こうとする自分。
続ける自分。
それぞれの自分自身は「気付いた」自分自身の延長線上にいるわけで、これらの過程の中でも特に重要なプロセスが「気付く」ことだというのはお分かりいただけるかと思います。

その「気付き」の力を高めるためにはどうすればいいのか?
この問題を教育現場の多くの人間はあまり深刻に考えていないような気がします。
教育は与えることが当たり前になりつつあるんですね。
「気付き」力を高めようという発想が抜け落ちてしまうのです。
ところが、この「気付き」の能力の有無。
会社で部下の指導を行う課長とか、そういう立場の人にとっては切実な問題となっています。
部下をお持ちの方ならお分かりになると思いますが、ぱっぱっぱっと気付いて行動してくれる部下がやはり優秀なわけです。
つまり、社会で求められている必須の能力の一つと言えます。
社会で自立出来る力を育てるのが教育の責務ならば、この能力を高めてあげることは教師として当然求められるべき役割であるはずです。
いえ、私の意見では、教育というのは、かなりの部分でそのために存在していると言っても過言ではありません。
そのためというのは、「気付き」の力を高めるためということです。
それなのに、なぜそれがおざなりになってしまうのでしょうか?
おざなりになってしまう理由を考える前に、そもそも「気付き」の力を支える要素は何なのか?という部分からお話をしてみたいと思います。

私が考えるに、「気付き」の力は大きく二つの要素から成り立っています。
ここでは仮に右脳的要素、左脳的要素と名付けることにしましょう。
一般的な言葉を用いるなら、右脳的要素を状況把握力、左脳的要素を課題発見能力とでも呼ぶのでしょうか。

まず、「気付き」の力を構成する要素の一つ目。
右脳的要素について。
これは言うなれば、直感的な「気付き」力です。
頭で考えて気付くというレベルではなく、見た瞬間に閃くような気付きです。
横に広く、縦に浅いイメージ。
落ちているゴミに気付くとか、日常の些細なことに対する気配りにおいて発揮される力です。
それに対して、左脳的要素とは何か?
一言で表現するならば、論理的な「気付き」力です。
見た瞬間に閃いて、瞬時に取るべき行動を選択するようなタイプの気付きではありません。
縦に深く、横に狭いイメージです。
例えば、「なぜ空き缶は丸いのか?」このように本質的な部分への問いかけから思考が始まり、「なぜ?」「なぜ?」と思考をより奥深くまで追及していくことで得られる「気付き」を指します。
この二つの要素である右脳的要素、左脳的要素のどちらが大切ということではありません。
どちらも重要なんです。
そして、教育において求められるべき重要な役割はこの二つの「気付き」力を高めていくことです。

同じ「気付き」力ですが、それを右脳的要素、左脳的要素と分けた場合に、私はそれぞれの力を高めるために必要な指導を別の次元で考えています。
まず、右脳的要素。
こちらは普段の躾によって高めていきます。
例えば、子供達は何かをしてもらっていることに対して「ありがとう」とあまり言えません。
常識のない社会人も同様です。
残念ながら、私の教室にアルバイトとしてやってくる多くの大学生も初めはそうでした。
彼らが「ありがとう」と言えない最たる理由は何か?
見た限り、人格的に問題のある大学生はいなさそうです。
それなのに言えない。
今では私の下で働いたことのあるほとんどの人間は、私が食事に連れて行った日の翌日までには必ずお礼のメールをしてきます。
でも、最初はそれができない。
なぜなのか?私はこれが不思議で仕方ありませんでした。
彼らと話していて、やっとわかったことがあります。
何のことはない。
彼らに悪気は全くなく、「してもらった」自覚がなかったんです。
よく考えてみれば、これは当然の話だったんですね。
アルバイトとしてやってくる彼らの多くは20歳未満。
食事代も、家賃も、学費も、そのほぼ全てを親が出しているわけですから。
与えられることが当たり前になっているから、会社で上司が食事代を払ってくれることも当たり前になっていたんです。
要するに、「してもらった」ことに対する気付きの欠如があったということ。
その視点に気付いてから、私は自分の教室運営を再度見直してみました。
そしたら、あるある・・・。
出来ていないのはお礼ばかりではありません。
椅子をひかない、ゴミを拾わない、靴をそろえない、ごめんなさいを言えない・・・
多くの基本動作が出来ていないことにショックを受けました。
最もショックだったのは、その環境を作り出しているのは自分自身だったということ。
つまり、私自身にそういう姿勢が欠如していたのです。
私が第一に職場のリーダーとして自立出来ていなかった。
部下に対して「ありがとう」の気持ちを持って接せていない部分がたくさんあったんですね。
動いてもらうことが当たり前と考えている自分がそこにいました。
で、何から変えたか?
まずは自分自身の姿勢です。
「ありがとう」、「お疲れ様でした」この二言を忘れずに言うようにした。
身の回りの整理整頓や職場の清掃をこれまで以上に心がけた。
(それでもまだまだでしたが・・)
その後、職場の躾を徹底しました。
具体的に言えば、挨拶を変えた。
靴をそろえさせるようにした。
お礼を言わせるようにした。
この3点です。
挨拶というのは、言うなれば日常で頻繁に遭遇する「気付き」の瞬間です。
相手の存在に気付くことでなされる行為ですから。
当たり前のことと馬鹿にせず、これをきっちり出来るチームを作ろうと考えました。
結果的に、私の言うところの右脳的気付き力のレベルは職場としてかなり底上げされました。
例えば、ゴミを拾ったり、寂しそうにしている子供にすぐに気付き、声をかけに行ったり、こういうことをもう一段高いレベルで行える組織になったんですね。
この出来事以降、私は確信を持っています。
「気付き」の力を高めるための要素の第一は日常の躾の習慣によって養われると。

もう一点。
今度は左脳的要素です。
これはどのようにして高めるか?
決まっています。
学問によって高めるんです。
具体的には論理的思考能力を高めること。
さらに言えば、数学や理科をしっかりやること。
過去の記事でも明らかにしてきましたが、論理的思考能力を高めるための方法は数学や理科に限りません。
トレーニングに適した科目が理数というだけのお話です。
別に理数の勉強をしなくても、日常の些細な事象に対して、「なぜ?」という問いかけを行い、それに対して思考を深めていくことで訓練をすることが出来ます。
先程、挙げた例もそうです。
なぜ、空き缶は丸いのでしょうか?
四角の空き缶の方が運びやすいと思いませんか?
このように身の回りにあるもの全てが、思考のトレーニング材料となります。
左脳的要素による気付き力。
この分野でのプロフェッショナルは、大学教授を初めとした研究者と言えるでしょう。
なんらかのテーマについて、「なぜ?」という問いかけを行い続けるのが彼らの仕事だからです。
残念ながら、あまり勉強をしたことのない人は、この点における思考の粘り強さに欠けるケースが多いです。
思考の粘り強さに欠ける人は当然ながら、この点における気付き力も弱いです。
学歴はなくても、頭の良い人は確かに存在します。
そういう人は先に挙げたように、日常の物事すべてに「なぜ?」と問いかける習慣を自然と身につけたことでしょう。
でも、題材の何もないところから、そういう思考を出来る人は稀です。
余程、追い詰められている人でなければそこまで深い思考は求められないでしょう。
普通の人は数学や理科の中にある特定の題材(要するに、テキストなどの問題)を使って思考力を高めるべきではないでしょうか?というのが私自身の見解です。
その際、ただ問題を解かせるのではなく、興味を持たせるように上手く導きながら指導していくのが各教科の教師に求められる重要な役割ですね。
※たまたま、とても良い記事を私が過去に指導した講師が紹介してくれました。
私の考える教育の理想形の一つがここにあります。
(東大合格激増させた灘校伝説教師の授業は文庫本一冊読むだけ)
http://tinyurl.com/4h93ww3

とにかく、躾と学問という二つの手段によって、気付き力は高めることが出来るというのが今回の主張です。
両方とも、教育が果たすべき役割なのですから、そうした意味で、教育と「気付き」の力の間には密接な関係があるという事が出来そうですね。
有名大学の学生がある程度優秀なのは自明の理なのです。
ただ、躾が不十分な学生が多いのも事実なので、この点、指導の余地ありですが・・。
体育会系の学生が好まれるのは、こうした点にも理由があるのではないかと考えています。
いかに躾を行えない大人が増えたかということですね。

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